大阪京大クラブ2013年11月例会 参加報告
代表幹事 日笠 賢(昭55経)
掲題会が下記にて開催され、北 修爾会長、白井顧問とともに出席して参りましたので、報告しま
す。

日 時:2013年11月8日(金) 17:30~19:30
場 所:(社)中央電気倶楽部3階食堂
講 演:山下 洋 氏
京都大学 フィールド科学教育研究センター
里域生態系部門 里海生態保全学分野 教授・副センター長

演 題:「森と海の関係~森から海までの生態学的なつながり」
出席者: 42名(関西東大会からは3名参加)
【例会】
高月会長のご挨拶のあと、今回初めて大阪京大クラブの例会に参加をされた関西東大会の北修爾会長が紹介され、そのご挨拶の中で、東大と京大の同窓会が相互に交流することの意義や、継続的にお付き合いいただいている御礼を申し上げるとともに、本日の山下先生の講演についても、大変興味をお持ちのことをお話しされました。
引き続き食事会となり、そのあと講演会が行なわれました。
【講演会】
北会長がご挨拶の中でも触れられた「森は海の恋人」を提唱して、牡蠣養殖を営みながら広葉樹の植林活動を続けている畠山重篤氏も、京都大学フィールド科学教育研究センターに講師として現在おられるということからお話が始まりました。
京都大学フィールド科学教育研究センターには、その宮城県の舞根森里海研究所の他にも、大阪京大クラブで今年5月に見学した上賀茂試験地や、瀬戸臨海実験所など、全部で10の研究施設があります。山下洋 教授は、舞鶴水産実験所を拠点に、沿岸域の環境と重要魚類の初期生態や、栽培漁業技術の開発、更には森里海連環学、即ち森林域、里域の構造が沿岸域の海洋環境と生物生産に及ぼす影響の解明、具体的には若狭湾に注ぐ複数の河川、河口域の環境や生物生産構造と河川集水域(里や森林)の構造との関係を解明するためのプロジェクトを推進中とのことです。今回は、現在の日本の森と里と海が実際どのような状態になっているのかということについて、とても興味深いお話をしていただきました。
以下に要点を記載します。
・2010年の日本の海面(沿岸・沖合・遠洋)漁業と養殖業の総生産量は、523万トンで、ピーク時(1984年の1261万トン)比では約4割になっており、敗戦後の漁業水域制限のマッカーサーラインが撤廃(1952年)間もない頃の1957年当時の水準にまで落ちている。
・この間に養殖は確かに増えてはいるが、沿岸漁業はピーク時(1985年の227万トン)に比べ57%の129万トンになり、埋立てで30,000haの浅海が減少した瀬戸内海の漁獲量はピーク時の38%に、干拓された有明海の漁獲量はピーク時の8%にまで落ち込んでいる。
・日本の沿岸漁業資源が大きく減った要因は、稚魚の育成場である浅海域の人為的な破壊や喪失、環境の劣化が、ボトルネックになっていると考えられる。
・河口や干潟域は、遡河回遊魚であるサケ、降海回遊魚であるウナギ、両側回遊魚であるアユやスズキなどの回遊魚の重要な通り道で、沿岸生物の大半が浅海域に強く依存をするため、浅海域の破壊や喪失、環境悪化は、沿岸漁業資源の減少に直結することになる。
・他方、日本周辺のクロロフィル(葉緑色素)の分布を衛星写真で見ると、アムール川、黄河、長江の河口に多く、この地域に植物プランクトン、栄養が豊富であることがわかる。
・アムール川河口は、陸地でしか生産されない鉄分が、流域の湿地帯を通って豊富に供給されるため、日本で獲れるサンマもこれを栄養にしていると言われている。
・舞鶴水産実験所と芦生研究林を持つ京都大学フィールド科学研究センターでは、由良川流域と若狭湾、丹後海を結んで、森里海の連環に関する様々な調査・研究を行っている。
・川が海へ運ぶものは水だけではなく、有機物や栄養塩(植物の3大栄養素の窒素、リン酸、カリなど)に加えて、土砂や浮泥、更にダイオキシン等の陸域からの有害物質がある。
・昔から「雪が多いほどスズキが多い」と言われるが、春の雪解け水が多いほど、栄養分の植物プランクトンが多くなり、スズキやヒラメの稚魚が主食にするアミが増えることが分かっている。(スズキは、日本の沿岸魚類の中で唯一安定・増加している資源の由。)
・栄養塩はバランスが重要で、最も不足しているもので生産量が決まる「最少律」が働く。
・由良川の河口域は、スズキの稚魚の格好の育成場であるが、夏場には海にアミが少なくなるため、成長の悪い一部のスズキが、栄養素の多い川へ遡上、回遊することが分かった。
・清流には藍藻類や珪藻類が豊富だが、濁った川は「浮泥」に覆われており、植物の発芽阻害や光合成阻害、貝類の幼生の着底阻害や呼吸阻害など、生態系の破壊者になっている。
・日本の河川に「浮泥」が増えているために、サンゴ礁生態系や岩礁・ガラモ場生態系、砂浜・アマモ場生態系が壊されて、アワビ資源やアサリ資源が減少の一途をたどっている。
・「浮泥」の原因の一つは、森林の荒廃、即ち林業の不振で枝打ちなどの森林の管理が出来ず、下層植生が育たないための表土の流出である。
・「浮泥」の原因のもう一つが、ダムの影響である。
・ダムが砂礫を堰き止めて、降水時には「浮泥」のみを排出する結果、河川とその沿岸域は泥化し、更には砂浜海岸がやせ細って、いずれ海も泥化が進む状況になって来ている。
・生態系間の連環の観点から、森里海の保全を通じて、自然景観や生物の育成環境など、水質以外の自然環境の質を改善していく新たな施策が、今、日本に必要になっている。

