2021年夏の講演会概要報告
8 月22 日、関西東大会初のWEB 形式にて、「夏の講演会」が開催されました。
50 名のご参加。コロナ禍により一年延期されていましたが、従来のホテル開催に替わる新たな試みです。なお、zoom のアレンジは、茂木鉄平代表幹事はじめ、大江橋法律事務所の皆様にご対応いただき、スムーズな運営となりました。
報告者 幹事 松見良三(昭63 法)
日時: 2021 年(令和3 年)8 月22 日(日)、15:00-17:00
講師: 元NHK アナウンサー松本和也氏
演題:「あなたの話は本当にわかりやすいのか?
~東大生だからこそ気をつけたい『伝わりやすい』話し方のコツ」
講師プロフィール:
京都大学経済学部卒。1991 年、NHK 入社。「英語でしゃべらナイト」、「紅白歌合戦」などの司会を務める。2016 年、退職。
現在、音声表現コンサルタント、ナレーターとして、ご活躍。
本日は、東大生に限らず、頭の良い人が、つい陥りがちな、話すときの間違った方法に関連して話します。タイトルとしまして、『リーダーだからこそ知っておきたい、話して伝えるテクニック』。さらに『オンライン時代こそ!』を付け加えました。折角ですから、オンラインのテクニックも入れてしまおう、という考えです。
経歴は、ご紹介のとおりです。2016 年に退職した後は、企業トップのIR 活動など、しかるべき立場の方が練りに練ったプレゼンをする、お手伝いをしております。
『リーダーのスピーチに必要な要素』は何でしょう?今話題の菅総理。下手ではないが、響かない。ネットに出てくるのは、「滑舌がよくない」、「読み間違いが多い」、「棒読み」、「感情が感じられない」、「他人事に聞こえる」。懸命に取り組んでいるとは思いますが、酷い言われようです。最初3つは練習不足。あとの2 つ、他人が書いた、面白くない内容のものを、感情を込めて読むのは、実に難しいです。私は同情いたします。
「今日の演説には、3つのものがない。熱意とビジョンと具体性が欠けている」-野党党首のコメントは的確です。リーダーのスピーチに必要な、3つの要素が含まれています。
『熱意』-伝えようという姿勢、『ビジョン』-実現可能なイメージ、『具体性』-説得力のカギ、です。『熱意』は、話し方で、どなたでも変えられます。『ビジョン』と『具体性』とは、話す中身で変えられます。国民に語りかける内容になっていない、原稿に問題がある。
原稿をどうすれば良いか、見ていきます。
「話して」「伝える」ために大切なことは、『聞き手の立場』になって考えること。滑舌や良い声は問題ではなく、聞き取れれば良いのです。それよりも、聞き手がどんなことを聞きたいか、どんなふうに言われたいか、が重要です。『自分が聞き手だったら・・・』をいつも発想していただければ、答えは出ます。
今日の内容は、①オンライン時代のコミュニケーション、②基本編~今すぐ取り組むテクニック、③上級編~時間はかかるが効果絶大、④質疑応答、になります。
1.オンライン時代のコミュニケーション
オンライン時代は、中身が良くても見てもらえません。一同に会している、リアルなら、面白くなくても聞いてもらえます。今は、PC の向こう側で、画面オフですと、相手は手元のスマホを見たり、そもそもPC の前からいなくなったりします。話すことばかりを考えるよりも、『聞き手』中心主義。聞いている人にとって、これでいいんだろうか、といつも考えながら、話すことがポイントです。
オンライン時代こそカメラにどう見えているか意識しましょう。聞き手に「ちゃんと聞いてくれているんだ」と思ってもらえるよう配慮します。話すとき-カメラを見る。聞くとき-カメラを見る。ごくたまに-PC の画面を見る。インターホンで話しかけるときのように、相手がすぐ向こうにいると想像して、カメラを見る。リアクションは大きめに。カメラのレンズはできるだけ目の高さに。照明にも関心を持ちましょう。顔色が良く見えます。
マイクは口に近い位置に。
2.基本編~今すぐ取り組むテクニック
(1)話し方 編
上手に話すとは流暢さや美声・滑舌の良さのことではありません。一般的な話し方教室の先生が教える、滑舌・発声や腹式呼吸は必要ない、と私は考えています。
まずは、きちんと聞き取れる話し方になっていること。ちゃんと聞き取れる話し方は、『聞きやすい』、『わかりやすい』、『ひきつけられる』、の3要素です。
『聞きやすい』ためには、「ゆっくり」、「はっきり」、「語りかける」、です。
東大生は一般的に早口の方が多い印象です。頭に浮かんだことを全部言語化することが多いです。少し「ゆっくり」。自分で、少し遅いかな、と感じる程度に。
気持ちの焦りに対しては、「下手でも良い、できることをやる」、とりあえず話すのをやめ、大事なことを一つ確実に伝える意識で。
「はっきり」と話すには、ひとことひとこと、しっかり話す。母音・子音を大切にする。
「語りかける」には、声の方向に意識し、聞き手の向こうにボールを投げるイメージ。
声が太く・大きくなります(マーライオンやアザラシのように、ダラダラと話さない)。
1対1で対面しているときのように、聞き手に語り掛けましょう。
(2)構成の仕方(話の中身のつくり) 編
聞き手は気が短いです。これが分かっていないのが、IOC バッハ会長。13 分、校長先生の説教でした。『まず聞き手の関心をキャッチ、そのまま引っ張り込む』話し方がリーダーには不可欠です。長~い自己紹介、プレゼンのテーマについての現状認識。
このような前置きはカットして、相手が聞きたいことを話す。理解されるには、構成が重要です。
まず『ざっくり』説明(結論・要点・概略)、あとで『しっかり』説明(根拠や詳細)。
言いたいことを思いついたまま話すのでなく、聞いている人が分かりやすいよう仕分けして話す。『見出し』をつけると、分かりやすくなります。「結論から言いましょう!」、「では何に配慮するか?」、「なぜだと思いますか?」-疑問文の見出しは効果的。
問いかけ⇒謎解き、の一人マッチポンプ方式は、オンラインのプレゼンでも有効です。
『全てを一度に言おうとしない』、『結論・概要を早く言う』、『見出しを付ける』、『細かい情報は少しずつ付け加える』。この4つでスピーチは上手く行きます。
菅総理の記者会見(8 月17 日)では、なぜ伝わらないのか、見てみましょう。
https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/statement/2021/0817kaiken.html
冒頭、大雨のお見舞い。緊急事態に先立つことはないでしょう。ここで掴んでいない。
大雨のブロックは不要。少なくとも、二度ある「申し上げます」は一度にすべきです。
決定事項を一文にまとめ過ぎ。耳で聞いて分かる文章になっていない。東大生の方が書いたのかと思います。分かるように書きましょう。まず、対策本部の開催と決定、次に、宣言を出す地域、続いて、まん延防止措置、最後に、適用期間、と仕分けします。
決定事項の後に言ったことが、感染拡大の現状認識。そんなことは、もう知ってます。
「なぜ新しいところに出すのか?」、「なぜ延長するのか?」を早く聞きたい。決定に至るはっきりした理由を明示しないので、聞く気にならないのです。
3.上級編~時間はかかるが効果絶大
(1)話し方 編
『話し方にメリハリをつける』と、すごいプレゼンターになれます。「緩急をつける」は、書き言葉では、フォントを変える、ことです。スピード-強調したい部分をゆっくり。
間-強調したい部分の前後にとる。音の高低・強弱-押すだけでなく引くことも。
上級編は、中身-まじめ⇔カジュアル、いい話⇔失敗談。声-強い⇔やわらかい、高い⇔低く呟く。同じものが続くと、眠くなってしまいます(バッハ会長)。
『無駄な文言を極力減らす』ことも説得力のポイント。接続語- え~、あの~。
敬語- ~におかれましては、~させていただく。婉曲表現- ~かなと思います。
自分の話し方を録音・録画して、あとで、言葉グセを数える、字に書き起こすと、言葉グセを減らせます。リーダーらしいシャープな話し方になります。
(2)構成の仕方(話の中身のつくり) 編
ちゃんと伝わるように話をしたいと思ったら、『話し言葉の原稿』を作りましょう。
箇条書きのメモがあれば話せます、という方は多いです。が、あなたが話せることと、聞き手が理解できることとは別の話です。聞き手が理解できるコメントか確認するためにも、原稿に一回書いてみましょう。
理解しやすいコメントにするには、『文章をできる限り短く』しましょう。
「私は、大きくて、枝振りの良い、美しい、桜の木を、見ています。」
「私は、見ています。桜の木です。大きいです。枝振りも良いです。美しいです。」
上と下、どちらが聞いていて絵が頭に浮かびますか? テレビのコメントは、下です。
一文一情報、が原則。いっぱい入れると、聞いている人が理解できないからです。
聞いて良く分かるのは、小学生のような文章です。息継ぎをせずに一息で話せる一文は、5秒、25 文字、以内が目安。述語一つに文一つ、を意識して下さい。
話した内容をしっかり憶えてもらうには、「余計な言葉を聞かせない」、「色々なことを並べたてない」、「伝える中身を絞り込む」。
やってますか? やってませんよね? 聞き手が吸収できる情報は限られています。
修飾語をできるだけ削る。どうしても入れたいときは、別の文にして付け加えます。
『会社を代表するメッセージは、原稿を作り込む』-社長スピーチ、記者会見、IR や採用イベント。株価や採用できる人材に関わります。なぜ確りとやらないのでしょう?
トヨタ自動車2018 年3 月期決算、豊田章夫社長のご挨拶、から引用します。
非常に良い内容ですが、話すとモタつきます。長いんですよね。文を短くしましょう。
「私は、トヨタを『自動車をつくる会社』から『モビリティ・カンパニー』にモデルチェンジすることを決断いたしました」
「私は、決めました。
トヨタをモデルチェンジします。
これまでは『自動車をつくる会社』でした。
これからは『モビリティ・カンパニー』になります」
先程の桜の木の話と同じです。分けるんです。なかなか書けない。テクニックです。
一つの文を一気に話さない。一つ一つの言葉の意味を噛みしめながら、話します。
文が短いことのメリット。聞く人にとって、楽に聞ける。話す人にとって、楽に話せる。
一番良いことは、コトバのインパクトが強くなること。これこそ、リーダーに求められる話し方です。
原稿を見ながら話しても問題ありません。「読むな、伝えろ」が、先輩アナの教え。
これで棒読みになりません。大切なのは、誠実に見えるように話すこと、です。
基本的に原稿をしっかり見て話す。文の最後になったらカメラを見る。これが、話しているように見える、原稿の読み方です。
今日、一時間強、お話ししたこと。全部やるのがリーダーです。基礎編はご自身でなさると、少し良くなると思います。大切なスピーチやプレゼンはアウトソースするのが当たり前の時代です。スティーブ・ジョブズにも、スピーチライターや演出をする人が
いました。全部アウトソースです。彼は、実に優れたプレゼンテーターですが、彼が、どれだけ練習していることか。日本は、トップが会社を代表してプレゼンをするとか、人前で話すことを、あまりにも軽視してきたのではないでしょうか?菅さんの文句を言う方は大勢いますが、菅さんより上手く話せる人はどれだけいるでしょうか?
今からイチから勉強する余裕がなければ、アウトソースする。
アウトソースする先は、ウチ、です。社長と広報とは、お互いの立場を忖度して、あまりはっきりしたことが言えないのが通常。外部の業者が入って、キチンとした仕事をする。
マツモトメソッド。ご発注をお待ちしております。御社の価値を上げるため、お手伝いができれば幸いです。
本日は、どうもありがとうございました。
4.質疑応答
(約40 分の中から抜粋。「Q&A」や「チャット」、「挙手」の機能を活用)
・プレゼンの中で合いの手を入れるコツは、ラジオのDJ。聞き手の言いそうなことを回り込んで口に出して言う。関西で言う、一人漫才の要領です。
- 伝える中身を絞り込むことが大事です。やってますか? やってませんよね?
・英語でのプレゼンで気を付けること。というより、英語で話すときの意識で、日本語で話すことを心掛ける。結論から:It is important that~。短くならざるをえません。
NY で20 分間、英語で漫談。下手でスミマセン、と開き直ったら、落ち着きました。
― 「英語でしゃべらナイト」に出てたくらいで、英文法はできても、会話は苦手。。。
・相手を感動させる秘訣は、「感動した」と言うのではない。相手に映像が伝わるよう、描写していくと、一緒に感動できます。笑福亭鶴瓶さんの話は、絵が浮かんできます。
・コロナ禍では、在宅勤務にマスク。しゃべる機会が減りがちであるが、声を出すよう、意識して工夫すると良い。同居のご家族などとしゃべることも多くなるのでは。
・1分間に300 文字は、アナウンサーがニュースを読むスピード。滑舌が良くないと一般の方には難しい。むしろ、同じ速度でも、緩急によって聞きやすさが違います。
・ビジョンを示す場合、文章を見せる場合と、直接話しかける場合と、2バージョンの原稿が必要になります。書き言葉そのままをしゃべるのは難しいですね。
・スピーチライターは、相手によって、またスピーカーによっても、原稿を工夫します。
例えば、ソフトさが持ち味のスピーカーなら、ソフトさを活かす。一方、ポイントになるところ以外では、むしろ少し冷たい感じにして、メリハリ・緩急をつけます。
TPO も考慮します。朝礼は、ツマラナイですよね。最初に面白いことから入って、短くします。次の機会にも聞いてみようか、という気になります。原稿・構成が大事。
・日本人が話し慣れていないのは幼少期からの教育・訓練による、というのは、おっしゃるとおりです。私は、いずれ、ボランティアで、子供たちに話し方を教えようと考えています。日本文化では、皆の前でしゃべるのは特別なこと。関西弁ですと、イキってる、何をカッコつけて、となります。大人になっても、ひたすら目立たないよう社内政治を潜り抜け、トップになった方々。いきなり目立つことをできるはずがない。
社会を変えないと、まず先生から変えないと。
・不祥事への対応は、今一番注目されていて、発注も多いテーマ。マズイのは、言い訳を先に言うこと。責任問題に触れると辞任に繋がりかねない、と逃げれば、追いかけられます。辞めると言わないなら、「責任は自分にあるが、辞任はしない、何故なら・・・」と向き合うべきです。質問にまともに答えず、その場を凌ぐ。一つのやり方かもしれませんが、不誠実な人物、という印象を与える面もあります。
・多数を相手の「アナウンサー口調」は、個人に対して言うと、ウソくさく聞こえます。
普段の会話と、2種類のモードを使い分け、状況に応じてシフトチェンジしましょう。
・質問と回答の留意点。長々と前提を話して、「で、質問は何なの?」が多いです。
短く。「○○について伺いたい、なぜでしょうか?前提としては・・・」、と続けましょう。
回答として、一発で答える、結論⇒根拠、の方法が一つ。逆に、答えが一つでないこともあります。まず、一言では言えないことを述べます。次に、主なものを説明します。
いろんな例外も含めて悩みながら答えるのも確り見せる。誠実そうな回答のコツです。
「ご指摘は当たりません」、とバサっと切り捨てる回答はしない方が良いです。
・模範とすべき例。聞いて分かりやすいのは、NHK ニュース。池上彰さんは、伝え方がスマートで内容も伴っています。スピーチですと、オバマ元大統領やスティーブ・ジョブズ。
最近では、カマラ・ハリス副大統領。日本人では、植松努さんが抜群に良い。文が短い、極めて自然体の話し方、内容も素晴らしいです。
【追記】
講演会の最後に、鈴木博之会長より、一言ご挨拶。
「かなり耳の痛いことも、いくつもありました。東大生だからということもあろうが、リーダーの立場で話す際に気を付けなければならないこと、そのとおりです。これから、参考にします。
ご参加の皆様も、同じようにお考えと思います。ありがとうございました。拍手、👏 、👏 」
以上


