2023年 夏の講演会報告(2023年8月20日)
2023 年8月 20日(日)16:30~18:00 ホテルグランヴィア大阪
講師: 久武正明建築設計事務所株式会社 代表取締役 久武 正明 氏
演題: サステナブルな建築の可能性と未来~自然と共生するウェルビーイングな建築と世界の動向~
久武 正明氏のご略歴
1991 年東京大学を卒業後、竹中工務店設計部special design team にて設計活動を行う。
1999 年にはコロンビア大学で学ぶ。 一級建築士、日本建築家協会、日本建築学会、兵庫県建築士会会員。2012 年に創業し、現在、久武正明建築設計事務所株式会社 代表取締役。これまでに、オフィス/ホテル/商業施設/美術館/福祉施設/教育施設/レジデンスなど、計画案を含めると300 以上のプロジェクトを計画。日本建築学会などから賞を受賞。
スイスの建築家ピーター・ズントー氏が初来日した際、アテンドしたのを機に、ズントー氏の「素材」から発想する建築から多大な影響を受けている。
『自然を感じ、こころもからだも潤う』 をテーマに、環境にとっても人にとってもサステナブルで、最高に心地よい空間の創造を目指している。
建築の企画・設計・監理の他、不動産や建設業などとのネットワークを活かした建築プロジェクトのプロデュース、日本の美意識や伝統的な智恵による建築の魅力を世界に発信する活動も行っている。趣味は世界を旅すること・写真・テニス・パンダ観察/保護活動等。
01.ご挨拶
みなさんこんにちは。久武と申します。今日はどうぞよろしくお願いいたします。
今日の流れですが、前半後半二つありまして最初に弊社の方で「サスティナブル ✖️ 建築」ということで自分が提案している心も身体も潤うHumanistic Sustainabilityというお話と、後半は世界のサスティナブル建築を地域、テーマに分けて色々とご紹介していこうと思っております。
02.久武氏ご自身のヒストリーについて
まず最初にここに至るまでの私の流れというかポイントのご紹介をしたいと思います。
(1)日本建築の美を学ぶ
大学を卒業して竹中工務店の大阪本店に就職いたしました。初めての関西ということで京都も近いということで日本の伝統的な建屋とか庭とかを時間を見つけていろいろと見に行っておりました。段々その奥ゆかしさというか美に引き込まれていきました。
(2)スイスの建築家P.ズントーの素材からの発想を学ぶ
1997年に著名な建築家であるP.ズントー氏が本を出版された際、竹中工務店がそのスポンサーになっていたので来日され、私がアテンドする機会がありました。そこでP.ズントー氏から素材からの発想ということでいろいろと刺激を受け、勉強させてもらったことがあります。
(3)メキシコへ建築家L・バラガンの建築を見に行く
2005年に建築家L・バラガンの建築を見にメキシコへ行きました。アクオスのT VのC Mとかに出ていたのでひょっとして見られた方もいらっしゃるかもしれません。この方はもう亡くなられておられますが著名な建築家で、安藤忠雄さんにも結構影響を与えたのではないかと言われている方です。特に光の魔術師と言われており、特に自然との共生とかメキシコの鮮やかな色彩の建築を作っておられた方です。
(4)独立へ
こういったことなどいろいろ模索をしながら竹中工務店を卒業して2014年に事務所を開設して今に至っております。デザイン・フォー・ビジョンズということでクライアント様ビジョンというか想いというか夢を一緒になって形にするような作業をさせていただいております。オフィスとか駅ビルですとか福祉施設、ホテル等々いろいろさせていただいているところです。
03.サスティナブル ✖️ 建築
本題ですが、サスティナブル ✖️ 建築ということで私たちが大切にしていることは環境にも人にもサスティナブルであるということです。サスティナブルということはどうしても環境の方に目が行きがちですが、建築には家具や人があるということで、人を中心に一緒に考えていくことが大事だと考えております。それをHumanistic Sustainabilityと呼んでおります。それでは人にとってサスティナブルということはどういうことだろうということですが、建築、建物空間自体が長く愛され、心地よいということに尽きるのかなと思います。サスティナブルということはそこにいる心地よさが無いとなかなか続いていかないのではないかなと思います。心地よさ、快適さというのは心も身体も潤うということから生まれるのではないのかなと思っております。人間のことと言いましたが建築というとどうしてもハードに目が行きがちですが、そこで行われる活動であったり、人がどう感じるかということが大事なのだと思います。今の時代デジタルでメタバースやV RとかA Rとかの時代になってきていると思います。どちらかというと今は脳で考える世界だと思いますが、あらためてアナログの身体で感じるような世界が来るのかなと思います。アメリカの著名な学者が今はどちらかというと身体の感覚が劣化しつつあると言っておりましたが、私は人間の本来の感覚を研ぎ澄ますようなものができないかなと思っております。では環境にも人にもサスティナブルということはどういうところから生まれてくるのかということで、そのエッセンスになると思っているのが日本の伝統的な建築の知恵というものです。具体的に日本の伝統的な建築というとどのような特徴があるのかということを3つほど挙げます。一つ目は自然との共生ということがあると思います。自然を感じてその自然のエネルギーを活かすということ。まさにこのあたりがサスティナブルということだと思います。建築は動かないしFIXされたものなのですが自然というものは変化し木々なども成長していきます。いかに自然と共に場所を紡いでいくのかということが大事だと思います。その中で四季の変化とか時間の流れとか侘び寂びとかを感じるというのが一つの特徴だと思います。二番目に簡潔さというものがあると思います。無駄を削ぎ落としたシンプルさの中に無限の豊かさがあるということです。構成する要素が少ないと素材も少ないですので、まさにエコにつながるということです。建築はあくまで活動の背景であって、自然を見るためのフレームという位置付けだと思っております。三番目に素材の力というものがあります。自然素材の手触り感であったり、繊細なディテールが心に響き、そこで長く親しまれ時を経た豊かさが出てくるのだと思います。日本建築の伝統的な要素がまさにウェルビーイングでサスティナブルな世界に繋がっていくのだと思っております。この日本の伝統的な建築は昔から蓄えられてきたものですが今の技術や素材でどんなものが生まれてくるのかということをいろいろ追求していっているところです。環境省がZ E Bを実現する技術ということでパッシブ、アクティブ、創エネということを言いますが、今の話はどちらかというとパッシブ技術という必要なエネルギーを減らすという分野に入るのではないかなと思っております。伝統的な建築のイメージですが、例えば庭屋一如という考え方があって庭と部屋が一体となるという世界があると思います。これは縁側とか庇ですが外部で庭が見えている左の方には直射日光が当たるのですが、縁側は内部との中間の場所で環境的にも間の穏やかな日差しで柔らかな中間的な気候の場所であると思います。光庭は上手いこと直射日光を避けながら光の明るさだけを取り込むようなものです。天窓は京都の長屋などでは奥が長いので真ん中の床に光が差し込むようなものを開けたりします。天窓は壁に開けられた窓の三倍の明るさを感じるというように言われていますのでこれを効果的に利用した空間を作っています。あとは地下水の利用も考えたりします。
ここからは具体的に五つの事例を挙げ、私の取り組みをご紹介させていただきたいと思います。
(1)現代の茶室 (テーマ)伝統 × テクノロジー
これは竹中工務店に在籍していた時に担当していたもので施主は佐川急便です。滋賀に自社のいろいろな公共のゾーンがありその奥に美術館があるのですが、そこに400年続く楽焼の当代楽吉左衛門先生のお茶碗を飾る展示室と茶室を作るプロジェクトです。茶室は人工の水盤に浮かんでいて水盤の下が美術館になるという構成の建物になっています。本館の方から参りますと一回地下に降りて最後また上に出てくるという動線になります。路地は地下ですのでこのあたりは暗いのですが水路地と言ってここで少し一瞬明るさを感じることができます。路地のところは水平的な空間なのですが水路地は垂直的な空間になっていてここでまた内側に入って階段で徐々に地上に上がっていくと茶室の小さな小間があります。ここは閉じた空間なのですが垂直的で天井の高い空間になっており、さらにステップを上がって広間で開けることになります。伝統 × テクノロジーということなのですが、これは木造に見えて鉄骨の柱になっています。細い無垢の鉄の柱で100φくらいだったと思います。屋根はコンクリートの上にチタンを葺いており内側には煤竹を貼っている構成になっています。ちょっとわかりにくいのですがガラスが入っていて製造できる限界の2m✖️10mくらいの大きさのものが自動扉になっていて開きます。左側は広間なのですがお茶席の時は区切ったりできるようになっています。跳ね上げ式の仕切りみたいになっていて先ほどの座の位置からすると斜めに仕切り板が上がっているので座っている席から見えないようになっています。そのような三頭一鼎となるような工夫をしておりました。自然と同化するということで美術館の地下のホールのトップライトなのですが水盤がありそこに波紋を作って下に降ろしたりしております。左側は小間の入口のところですがスリットの窓から外に葦が生えていてその緑の光を拾って緑の光が障子を照らすようになっています。楽先生がテーマとされておられたのが現代の茶室ということです。待庵は400年前の利休による土の茶室なのですが、現代のはコンクリートの茶室を作ったらどうかということで取り組みました。普通のコンクリートはもっと薄いグレーですが、ブラックコンクリートといってコンクリートに酸化鉄を混ぜて色を濃くしています。ここでは杉型枠と言って板上の杉材を実(さね)にして重ねて加それを型枠にすることでできあがりは反転しますので細かいテクスチャーがでます。小間の内側から見たところで和室の障子ですが普通は桟が入るのですがここにはありません。よく見ると縦に筋があってそれはアクリルの棒が支柱になっておりプリズム状に光を反射させて緑色にも見えていますが光が微妙に色を変えて見えます。石の使い方も石切場から切り出したような石を使って波打ち際を石の加工で表現しています。天井は煤竹とか木もいろんなところから取り寄せて時間の経った年代の経った荒く切り出した物を使っています。照明ですが広間の照明は基本的に間接で広間を明るくしています。お点前とかがある場合には茶碗のところだけが照らしだされるようになっております。天井のさっきの煤竹のところにほとんどわからないようなピンのような穴があってそこから照らしています。伝統的なしつらえのように見えながら現代の技術をミックスして新しい世界を作っているというようなことです。
(2)人が集まるオフィス (テーマ)コミュニケーション
敷地は奈良の大和高田というところです。建物は2000平米くらいで100周年の事業として会社のオフィスと研修ホールと一般の人も利用できるカフェテリアを併設して作るというプロジェクトです。ここの特徴としては中庭があり2階建ですが7箇所の庭がありそれぞれに緑や水があるようなしつらえになっています。1階は中庭を挟んで北側に研修センターがあり南側にカフェテリアがあります。これらはパブリック的なスペースです。2階はオフィスでI Tセンターがあります。本部のオフィスもあり廊下でつなぐ形になっています。中庭からそれぞれへアプローチしていくことになります。道路側は非常通路のようなものを門型のような形でデザインしています。奈良では寺社などに大きな門をくぐって入るということがありますがそれに似せています。観葉植物は南洋の植物が多いのですが今回庭の周りの植物は日本に古来からある白樫や萩やサクラやモミジなんかも植えたりしています。建物の真ん中に光庭を取ることで垂直に建物がつながるようにしています。研修ホールの北側で1階と2階の光庭がつながり2階のITセンターの所にはトップライトがありますので中庭(光庭)から風が上に抜けて行くようになっています。天窓から柔らかい光が入ってくるほかスリット窓からも同じように光が入ってきます。トップライトはそのままで使うと暑いものですからここにアルミ板のパンチングで今回は開口率50%くらいのものを設けて日射を少し和らげて明るさは確保しつつ負荷を小さくしています。ちょうど設計のときにコロナが流行りましたが元々の計画ではぎりぎりまで普通にガラスをつけていたのですが、3mくらいセットバックして縁側のような場所を作りました。こういう半外部の空間がコロナ禍の一番ひどいときによく使われていたそうです。地下水の利用ということで中庭の下に地下水を貯めるピットを設け、そこに塩ビのじゃばら管を通してあります。外気を取り入れて地下水の所をぐるぐると回すことで温度調節された空気が研修ホールやカフェテリアのエントランスとか2階の廊下(ここは空調されていないところですが)などに冷気が行くようにしてあります。冬は少し暖かい空気が行くことになります。何も触れずに過ごせるスマートオフィスとし、三密などとも言われていた時期ですので非接触の空間を最先端の技術で工夫しました。非接触ボタンのエレベータはかざすだけでエレベータが操作できるものを導入しました。非接触ということで会議室の扉を無くしているのですが音が漏れないように入口の上にスピーカーを2つ付けてそこから環境音を流して音が外に漏れにくくするということもやっています。素材に関してですが吉野が近いということで吉野材をふんだんに使い無垢材の家具としています。丸太から製材して梁材という10cmくらいの板材にして継ぎ合わせて使っておりました。
(3)街を元気にするオフィス (テーマ)ランドマーク
芦屋の国道2号線の近くで打出の近くです。前の道が広いのですが寂しい感じです。施主から建物がメッセージとして使われ街が元気になるように、と言うリクエストをいただいておりました。1階には店舗が入って2,3,4階はオフィスになっています。夜は行燈のように光が漏れだすようになっています。メッシュ状のところはレンガのスクリーンになっています。レンガスクリーンの内側から穴を正面から見ると向こうが見えますが外から見ると中が見えないようになっています。普通のガラス張りの建物でもブラインドなどをしたりするのですがここではそういうものが不要でほどよい光が入ってくるいい感じの室内になっています。レンガスクリーンは互い違いになっており2か所に穴をあけて鉄筋を通して地震なんかでも崩れないようにしてあります。裏側にはさらに鉄骨の支柱がしっかりあってそれにも持たせかけながら構成しています。レンガスクリーンの素材は手焼きのタイルでちょっと凹凸感がご覧いただけると思いますが湿式で厚みのあるタイルに櫛で線を入れたり穴を開けたりいろいろなジグでひとつひとつ手作業でつくってもらったものをタイルとレンガにして使っています。
(4)「中庭」のあるリノベーション (テーマ)イノベーション
インテリアだけれど中庭をつくるというテーマです。会社の一部のレイアウトの計画ですが休憩室のゾーンがありそちらを主に改修しその壁を抜いて中庭をつくるというようなことをしました。建物全体で2000㎡のワンフロアなのですがそこに中庭をつくっています。中庭はだいたい80㎡くらいで面積的にはそれほど大きくないのですが天井を反射板にしてより緑を感じさせる空間にするような工夫もしています。広いワンフロアの改修しなかった総務エリアからもこれを見て楽しむことができます。バイオフィリックデザインということばがあるのですが、人間は本来的に緑や水の自然を欲するところがありそれを生活に取り入れていくという意味になります。植物が大きくなってこれをメンテナンスするのもたいへんでは?という話も出てきますが社員の方々に育てていただいています。担当が決まっていると育てざるを得ない。そうすると段々と慣れてきて植物に対しての愛着が湧き中には植物に名前を付けられる方もいらっしゃるそうです。そういう意味でも非常に喜ばれています。排水などしなくて良い水耕栽培を提案していて2週に一度の水の水やりで基本的に良いようになっています。オフィスですが窓側のエリアに人工の光ですが間接の光をうまく使うことで情緒的なものを表現しています。社長室で2面を鏡面的な仕上げにしましたので4倍の広さに見えるような面白い仕掛けになっています。
(5)交流を生む道の駅・ホテル (テーマ)木の建築
これはコンペティションの提案です。構造材として木を全面的に使っているプロジェクトなのですが、ここではCLT(クロスラミネーテッドティンバー)で、いろいろなサイズがあるラミナという板状の木材を貼り合わせて一つの面材にしたものです。最近、木は耐震性や防火性や施工性などが格段に上がってきて高性能につくれるようになってきておりいろいろなトライアルがなされています。このコンペの敷地は岡山で、岡山の山間はCLTの産地でもあります。CLTは大きくて施工しやすいというところがあるのですが反面、弱点としては大きいために輸送がたいへんでコストがかかるというところがあります。近いところに工場があり、郊外型の道の駅ですから利便性があって交通の便が良いところなのでここでは理にかなっているということで提案をしてみました。内部の特徴としてはスキップフロアのようになっており、建物は全部柱梁をCLTで構成しています。風がスキップフロアを抜けて行き、天窓から光が差し込むというような提案でした。コア部分は階段やエレベーターになりますがその部分をCLTのがちっとした躯体で繋ぎ合わせるというようになっていてその間を平たい版で繋ぐような架構になっています。真ん中あたりのラウンジゾーンやコワーキングスペースにも使われるようになっており2階がホテルになっています。
ここまでが1部でして私どものほうで取り組んできました事例を紹介させていただきました。
04 世界のサステナブル建築の動向
ここからは世界のサスティナブル建築の事例ということになります。国によって文化や気候条件などいろいろ条件が違い、建築家のスタンスや提案するものによってもアウトプットが変わってきますのでいろいろな国のものを挙げて順番にざっと紹介します。
(1)ドイツ 最先端テクノロジー
ライヒスターク(ドイツ連邦議会議事堂)/ノーマンフォスター
古い建物で長年放置されていたものをフルリノベーションしたものです。真ん中のドーム型のところがガラスになっておりそこがすり鉢状になっていて光を集めてきたり、自然換気になっていたりしていて最先端のしくみになっています。ここは一般の観光客にも開放されていて、通路が上のガラスのドームのところまで行けるようになっています。さらに円盤状のスロープを上がっていきますと最上階の展望台のところに行けるようになっています。床が部分的にガラスになっていますので議会の状況も見えるようになっています。
(2)オランダ
①オフグリッド Floating offgrid office / Powerhouse Company
オランダの人工の島のプロジェクトでオフグリッドと言うテーマで水上に浮かぶオフィス(フローティングオフィス)です。半分は島の庭のようになっていて半分は太陽光発電のパネルになっているので電気を自給自足で発電が出来、完全にオフグリッドになっています。温暖化による水位の状況がこういう人工の土地をつくっているエリアでは関心が高く死活問題でもあるようです。水上に浮かぶオフィスであれば洪水などのときでも水位の上昇に合わせて上がっていくので水没の心配がないということです。本体は木造になっていてこれはまさにCLTのようになっていて組み合わせて使うようになっています。
②デンマーク海洋博物館/B I G
これはオランダのリノベーションのプロジェクトです。後ろの方がドッグの跡でそれをリノベーションして博物館にするプロジェクトです。景観地域で後ろの方にお城が見えているのですがあまり高さを高くできないということでドッグのまわりの地下に施設をつくるというユニークな計画です。
③サーキュラーエコノミー(壊す時のことを考えて建てる) People’s Pavilion / bureauSLA(ビューロ・スラー)
サーキュラーエコノミーと言って壊すときのことを考えて建てるという発想のプロジェクトです。この建築家の弟がピアニストで防音室を安く作りたいということを依頼され、彼が考えたのはオランダ版のメルカリみたいなもので中古の材を集めてほとんどお金をかけずに作ったそうです。これはさらに一般のデザイン展で建ててくれないかという話が出てきます。9日間のイベントのパビリオンなのですが、当然再利用というか壊すことを前提として作るということになるわけです。素材は同じように集めて、ただ規模の大きなしっかりとした建物だったのでここでは縛る黒いバンド状のもので構造材を巻いて強度を持たせたそうです。
(3)スペイン
ウォーカブルシティ
これはスペインのバルセロナの例なのですが建築と違って都市計画的な話です。スーパーブロック計画ということで敷地のあるエリアを完全に歩行者ゾーンにしてしまう。居住者は(車で)入れるのですがかなり量を減らして、そこを一時的に市民が活動に使えたり、場所によっては恒久的な広場的なゾーンにしたりということです。公共ゾーンには自転車は入ることができるということになっています。こういう形で(陸上の)トラックにしたりお店が出たりとかそのような形で使われるようです。
(4)デンマーク
快楽主義的サステナビリティ Copen hill /B I G
これは快楽主義的サステナビリティというプロジェクトなのです。先ほどHumanistic Sustainabilityと言ったのですが、サスティナビリティというと我慢とかのイメージが来るのですが、ここでは楽しいこととサスティナビリティを両立するというコンセプトになります。これはゴミの焼却炉のプロジェクトですがゴミの焼却炉にプラスして人工スキー場の斜面をマッチングしたユニークな建物です。焼却炉の屋根が斜めになっていましてその上を人工スキー場にしています。内部は近代的な鉄骨のトラスで組まれていて年間45万トンの廃棄物を処理してクリーンエネルギーを作り出しています。
(5)アフリカ
素材の地産地消 ガンド小学校/フランシス・ケレ
建築というプロセスを通じてコミュニティをサポートするということを理念にしている建築家です。彼はアフリカの貧しいところの出でロンドンに出て行って奨学金とかで建築の知識を蓄えてそのアイディアを地元に持ち帰ったプロジェクトです。地元のレンガの素材を使ってそれを積み上げるのは地元の人でもできます。空調のない建物なのですがボールト状のレンガの上にもう一枚トラス状の薄いトタンの屋根を貼るというアイディアで、トタンの屋根とボールトの間を風が流れ、レンガの屋根には穴が空いていてそこから自然に空気が流れていくというしつらえになっています。基本お金がほとんどない中で地元の人たちで作って立ち上げ、これを全部データ化してネットに上げ、近隣の人たちもそれを作っていけるようにするという仕組みを作っています。
(6)アジア
①インドネシア エコマテリアル
インドネシアのエコマテリアルということで竹を使った事例です。竹は成長が非常に早いのでそれを活かして中国なんかも最近まで足場は竹が使われていたのですが3年くらいで成長してくれます。ただ弱点としては10年とか工夫しても20年とかで朽ちるまでの期間が短いということになってしまうのです。地産地消で、これは学校だったかと思いますがそういう施設ですが竹の色合いとか柄とかでいろんな足場のような形でいろんなデザインで使われています。
②シンガポール グリーンシティ オアシアホテル
グリーンシティということでシンガポールは国を挙げてグリーン政策を進めていますが、東南アジアの熱帯の暑い気候でそれをどう和らげていくかということを考えてきたと言われています。今、日本も熱帯化してきていますがこの事例が参考になるのかなと思います。プロジェクトとしてはオアシアホテルというのがユニークで鉄籠が建物を覆っていてそこに甲子園のように蔦が上がっていって緑の断熱材になっています。ところどころに吹き抜けがあって大きい形で風が抜けるような断面をしています。
(7)アメリカ バイオフィリックデザイン
Amazon HQ2 / NBBJ
アメリカですがこれはバイオフィリックデザインということの大型化ということです。Amazonの本社に併設されているガラスの球体状の植物園のようなオフィスゾーンに植物がふんだんに持ち込まれているところです。50カ国から4万本ということである意味運んでくるエネルギーが壮大なのでその分は大いに反省するところかもしれませんが啓蒙的な意味も含めてユニークなプロジェクトと言えると思います。植物にとっては環境が非常に大事になってきますので温度管理とかは植物園のような感じで温湿度管理が行われているそうです。
(8)日本 自然共生
①角屋
日本の自然共生ということで京都の一連の写真ですが、これは角屋です。江戸時代から使われてきていろんな人が集まって宴会の場として使われていた場所です。このおぼろげな白い障子を通した光の入り方は今までのエコのイメージとはちょっと違うかところがあるかなと思いますが、並べてみますと感覚的なものが伝わってくるのかなと思います。
②瑠璃光院 / 中村外二 数寄屋建築、佐野籐右衛門作庭
次に瑠璃光院で京都の北の方の山間に昔別荘として作られた有名な数寄屋建築なのですが今は寺として使われています。有名なのは2階の広間に漆の机があり緑を反射して新緑や紅葉の時期も綺麗でインスタグラムなんかにもよく写真が出ています。写真で見るのと実際の肉眼で見るのでは、てかり方というか映っている像の度合いが違ってくる。写真の方が良く見えていて肉眼ではここまでには見えないというのが逆に面白いと思います。見る人によって見え方が変わっているのだと思いますが、そういう人間の独特の感覚みたいなものがこの時代にますます問われているのかなと思います。そういう時にこういう日本の建築のエッセンスはヒントになるのかなと思って見ています。
第2部も以上で話は終わりですが、最後は「日本の美を世界に」ということです。関西に来て30年前くらいはなんとなく日本の建築はいいな。世界に発信していきたいなとおぼろげに思っていました。最近はエコの話とかも色々出てきて繋がっていったりもしています。今後もそういう活動をしていけたらと思っています。これは香港のデザイン展で5、6年前から毎年参加させていただいていますが、政治不安で一時中断した年に日本企業が10社くらいがデザイン展に参加する日本パビリオンをプロデュースしていました。政治不安で実際に建てれなくてデジタルのバーチャルパビリオンにした時のC Gになります。最近もコロナとかでできていなくてウェビナーなどで日本の建築の良さを発信したりさせていただいています。これからも日本の美しい文化を広げていくような活動がしていけたらと思います。この後も色々ご意見やご指導がいただけたらと思っております。以上となります。ありがとうございました。
質疑応答(抜粋)
Q.大阪、関西万博でパビリオンがなかなか建たないという話が出ていますが、三つくらいの理由があって一つは資材高騰でコストが上がっていることで折り合いがつかない。二つ目は2024年の時間外労働が規制されること。もう一つは夢洲に橋が二つしかないので渋滞が起こり輸送が間に合わないということ。後の二つは仕方がないと思いますが、コストを抑えて簡素なものにするとパビリオンの個性が無くなってプレハブのようものになってしまうと言う論調があります。今のご講演だったら逆に感性や素材の力など日本の伝統で十分個性が出ると思うのですがこれからそういった工夫がなされていくのでしょうか?
A.たしかに日本には簡素さの特性があったりしますがそもそも万博はその時代の叡智を集めてつくられてきました(パリ万博のエッフェル塔など)。色々な国の文化地域性が違うので見にいく方はそれを見にいきたい。そこで出てきたものを出来るだけ尊重したものを見て見たい気がします。2024年問題でいうと我々の仕事でも工期の問題があって週6日稼働していたものが5日になると20%は厳しくなります。ますます厳しくなりそうですが、出来るだけ最初のイメージのものを工夫してブラッシュアアップした良いものを見たいと思っています。
→(河野代表幹事より)次回来年冬の総会2/4では石毛万博協会事務総長をお招きしてお話しを伺う予定ですので皆様ぜひお越しください。
Q.サスティナビリティ建築やリノベーションなどで各国のレギュレーション特に耐震とか火の問題などの基準がリノベーションをする上で制約になっているのではないかと思います。当社も古い建物をリノベーションするときに素晴らしいレンガ壁があるのだけれど耐震のために見えないように筋交を入れようとするがどうしても見えてしまうとかが難しかった。ヨーロッパでは地震がありませんのでやはり日本ではそう言うことが難しいと思われますか。
A.例えばニューヨークだと斜線制限が日本以上に厳しいものだったり、フランスだと申請の時に理念のようなものを近隣の人に問うようなことがありより突っ込んだ概念的なリクエストが通らないと工事をさせてもらえないそうです。地震はおっしるようにヨーロッパでは少ないので、日本の構造のイメージとは全然違ったものになります。竹中の時にも関わったのですが免震建物の場合は構造がヨーロッパと同じような条件になりますのでデザイン的にスリムな柱などでできる可能性があります。免震建物は上の構造の量が減ったりすることでやり方によってはコストでも見た目でもチャレンジングな面白い建物ができる可能性があります。
Q.日本の代表的なゼネコンである竹中工務店に勤務されていて最先端のお仕事をされてきた後に独立されたと言うことですが、独立する前と独立された後ではご自身がやりたいテーマが変わってきたり、何か目的があって大きな組織から離れられたのかなどを教えていただけますでしょうか。
A.テーマは変わっていないと思います。日本建築の内部と外の庭が繋がる一連の空間であるとか、そう言ったことを学会で20代ぐらいの時に話したりしました。建築はどんどん作れると言うわけでなく数は限られますので、考えたことを形にするのになかなか時間がかかります。学生とか若い時に考えていたことを段々実現して行っているというところです。竹中工務店では設計部と言う大きな組織の一部でしたのでプログラムとかは営業の方が設定いただいたものを作ることになる。やはり独立してからは一から考えて建てない選択肢もあったりと、クライアント様と話しながら方向性を考えていくというそんなふうにやっていきたいと思っています。
Q.日本は昔から四季もあり自然との共生もされ、簡素さもあり素晴らしいと思いつつ、今の異常な気象の中で今後のことはどういうふうに対応していくのか?やり方が変わっていくのか?素材が変わっていくのか?もう一つはコストのこと。素晴らしいなと思いながら高いのだろうなと思っていたのですが、オフィスの中でああいう中庭をとるというのは素晴らしいのですが、コストをかけてやった場合に実際に生産性が上がるとかはあるのでしょうか。
A.最初の気象の変化の話ですが、東南アジアやインドなど条件がより厳しい過酷なところの建物もあります。インドにも日射遮蔽のレンガスクリーンがありますし、東南アジアでも縁側のような中間領域のようなものもあります。今後は日本の気候は東南アジア的な亜熱帯の気候になっていくのだろうなと思っていて、そういうところから学びその外部の場所をどう活かしていくというのがあります。気候変動をヒントにしてまた日本の伝統的な建築が技術と掛け合わせて進化していくのを考えていきたいと思います。生産性に関しては具体的にエピソードとしてオフィスのリノベーションのところで中庭を作るというのがありました。もともと休憩室で使うようにつくられたのですが、結局あそこはコミュニケーションの場、打ち合わせの場になっていて、最近ではウェビナー、オンラインの場所になっている。お客さんとかにはインパクトがあって面白いと思われているようです。あとは先ほど言ったバイオフィリアというような、研究されていてある程度実証されたものがあると思います。
(要旨文責 幹事 岩田恵)

